〇 この記事でわかること
- 副業収入に関する所得税基本通達の改正の概要(パブリックコメント後の結果)
- 副業収入について、何が問題だったのか?
- 副業収入を事業所得に該当させるために必要なこと
目次
副業収入に関する所得税基本通達の改正の概要
副業収入にかかる所得税基本通達の一部改正概要
「副業収入300万円以下の場合は、雑所得として扱われる」という副業者にとっては、かなり影響が大きいと思われる所得税基本通達の一部改正(案)に関するパブリックコメントが、2022年8月1日~8月31日まで行われていました。
パブリックコメントというのは、法律に関するルール改正などを行う場合に、広く意見募集を行う手続きのことです。行政手続法で定められている意見公募手続となります。
副業界隈では、割と有名な話しだと思いますが、これについてパブリックコメントの結果が2022年10月7日に公表されました(以下、政府のパブリックコメントのページ)。
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCM1040&id=410040064&Mode=1
上記の基本通達の一部改正の概要としては以下の通りです。
「副業収入300万円以下の場合であっても、帳簿書類の保存があれば原則として事業所得に該当」
これは、パブリックコメントとして出された当初案に対して、大幅に譲歩された形になったと個人的には感じています。
だって、「事業についての帳簿書類を保存すれば事業所得に該当」って、めちゃめちゃ普通のことじゃないですか?
事業を行っていて、帳簿書類をきちんと付けていなかったら、正確な利益計算が出来ないため、正確な税額も算出できませんよね?
パブリックコメントで示された国税庁の考え
今回のパブリックコメントは、やはり世間の関心が大きかったようで合計で7059件もの意見が寄せられました。ちなみにパブリックコメントは、今年度結果が公示されたものが約900件程度あります。
その中のほとんどの案件が意見数が0~数件程度。多いものでも数十件~数百件程度です。ここ1か月では、今回の案件が断トツで意見数が多く、他は安全保障関係で二千件台、千件台の案件がありました。
このことからも、今回の副業収入にかかる所得税基本通達の改正がいかに世間の関心を集めていたかがわかるかと思います。
パブリックコメントには、7000件以上ものご意見が寄せられた訳ですが、主な意見としては「副業推奨の方針に逆行している」、「副業収入300万円以下を雑所得とするのはおかしい」というような趣旨のものが多かったようです。
これに対する国税庁の考え方を一部抜粋します。
今回の通達改正では、「その所得を得るための活動が、社会通
「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)
念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかにより判定する」
ことを原則としつつ、社会通念での判定で事業所得に該当しない場合
を明らかにしたものです。
(雑所得の例示等)に対する意見公募の結果について(国税庁より)
この回答は、私自身はかなり重要だと思っています。
要は、「原則は他の人が見て事業と呼べる程度のものかどうかで判断します」、そして今回の通達改正では、「他の人が見て事業と呼べない場合を明らかにしました」と言っています。
他の人が見て事業と呼べない場合とは、「事業収入300万円以下で、かつ帳簿書類が保存されていない場合」ということになります。
こうなると、実は事業収入が300万円以下かどうかというのは、ほとんど関係が無くなり、「事業収入かどうかは、帳簿書類が保存されているかどうかで判断する」と言っていると同じことだと考えます。
実際、国税庁もパブリックコメントの回答で以下のように考え方を修正しています。
所得税法上、事業所得者には、帳簿書類の保存が義務づけられている
「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)
ところ、一般に帳簿書類の保存がある場合には、営利性や有償性、継
続性や反復性、自己の危険と計算における企画遂行性があると考えら
れることから、反証に代えて、帳簿書類の保存がある場合には、原則
として、事業所得に区分することとし、別添のとおり通達を修正いた
しました。
(雑所得の例示等)に対する意見公募の結果について(国税庁より)
「帳簿書類の保存がある場合には、原則として事業所得に区分する」と言っていますね。
その直前に書いてある「反証に代えて」も実は重要で。以下がパブリックコメントを受けて最終的に改正された文面になります。
(注)事業所得と業務に係る雑所得の判定は、その所得を得るための活動
「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)
が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定
するのであるが、その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その
所得に係る収入金額が300万円を超えない場合には、特に反証のない
限り、業務に係る雑所得と取り扱って差し支えない。
(雑所得の例示等)に対する意見公募の結果について(国税庁より)
「特に反証のない限り、業務に係る雑所得と取り扱って差し支えない」とあります。
「反証」というのは要は証拠のことです。副業が社会通念上事業であることを自分自身で証明しろと言われても難しいですよね?
それを、「帳簿書類の保存があれば、反証に代えれますよ」と言っている訳です。
こうなってくると、「帳簿書類の保存」がいかに重要なポイントとなるかがわかるかと思います。
副業収入について、何が問題だったのか?
副業収入について何が問題だったのか?
上記のパブリックコメントの最終的な結果を見ると、「副業をしている人もちゃんと帳簿を付けなさいよ」と言っているだけで、何か注意喚起しただけのようにも見えますが、元々は「事業収入が300万円以下なら、雑所得に該当します」と改正しようとしていた訳です。
では、副業を推進している政府が、なぜわざわざ副業に対する税法上の扱いを厳しくしようとしていたのでしょうか?
これは、はっきりとは理由は示されていませんが、あくまで私の個人的見解ですが、おそらくは以下のようなケースにより節税をするサラリーマンが増えたためでは無いかと思われます。
- 事業所得は確定申告により損益通算が可能(青色、白色ともに可能)
- 事業所得が赤字になるように必要経費を計上(虚偽で無ければ悪いことではない)
- 確定申告により、給与収入と損益通算し所得税還付を受ける
2つ目の「必要経費を計上」というのは、副業はほとんどの人が自宅で行ってると思いますが、その場合に、家賃や光熱費、通信費などの一部を副業の経費として計上することができます。
例えば、副業収入が50万円あり、家賃等を含めた支出が100万円あれば、事業所得は50万円の赤字になるため、給与所得から50万円差し引いた金額が課税所得となり、給与から源泉徴収された税額が一部還付されることになります。
これをおそらく極端に悪用しているサラリーマンも結構いて、節税よりも脱税に近いようなケースが横行していたものと思われます。これに本当は手を付けたかったのではないかと思われます。
結果的には、上記のような確定申告をしているケースでは、帳簿書類はもちろん保存しているでしょうから、損益通算により恩恵を受けていた人には何ら影響は無い結果とはなっています。
こう考えると今回の所得税基本通達の一部改正が本当に当初の狙いを達成できるものなのかどうかには、個人的には疑問があります。
副業で確定申告しても会社にばれないの?
今回の記事のテーマからは少し外れますが、そもそも副業で事業所得の確定申告したら、会社にバレるんじゃないの?と思われた方もいるかもしれませんので、少し補足しておきたいと思います。
結論から言うと、「バレない可能性が高い」になります。
まず、事業所得として確定申告する場合には、青色申告と白色申告の2パターンがあります。
青色申告は、開業届が必要ですが、白色申告は開業届も必要ありません。ただ、開業届出をしたからと言って、会社に税務署から連絡がいったり、公報に掲載されたりはしないので会社にバレる心配は基本的にはありません。(税務署でばったり知人や会社の同僚に会ったりしない限りは)
また、確定申告をすることにより、税務署から直接会社に連絡がいくこともありません。
バレる可能性が最も高いのが、「住民税」です。確定申告をすると居住地の自治体に所得額について、情報が共有されます。これは、住民税額を決定するために必要だからです。
ここで何もしなければ、自治体が決定した住民税の額が会社に通知されることになります。そして、会社は給与から住民税を天引きする訳です。これを「特別徴収」と言いますが、会社は従業員から住民税を特別徴収する義務があるため、サラリーマンであれば、原則として住民税は特別徴収されます。
ただし、確定申告の際に、住民税の徴収方法として「普通徴収」を選択することが出来ます。この普通徴収というのは、「自分で住民税を納付すること」です。
確定申告をする際に、「給与、公的年金等以外の所得に係る住民税の徴収方法」という欄があり、そこで「自分で納付」を選択することによって、副業収入を「普通徴収」にすることが出来ます。
ただ、これで絶対バレないということではありません。特に同僚や友人に副業のことを話したりと言った最もバレやすいリスクは避けるようにしましょう!
副業所得を事業所得に該当させるために必要な帳簿書類の保存とは?
事業所得と雑所得の違い、事業所得のメリットとは?
今回のパブリックコメントのテーマである事業所得と雑所得の違いについて、「帳簿書類を保存することによって事業所得に該当させることのメリット」を確認します。以下に代表的な2つのメリットを示します。
損益通算のメリット
まず、1つ目のメリットとしては、「損益通算」についてです。これについては、先ほど記載した通り、他の所得と損益を合算できるというものになります。
当然ですが、給与所得はマイナスになることはありません。メリットが出る場合は、「副業所得が赤字となる場合」となります。この場合は、確定申告により所得税の還付が受けられることになります。
サラリーマンが年間合計所得で赤字になる場合は考えられませんが、事業所得は他の所得と損益通算の結果、赤字が残る場合は翌年以降に繰り越し、翌年の黒字分と相殺できるというメリットもあります。
ちなみに、雑所得は他の所得と損益通算は出来ませんが、雑所得同士では損益を合算することが可能です。詳しくは以下の関連記事をご参照ください。

青色申告特別控除のメリット
もう一つは、「青色申告特別控除」です。これは、白色申告には無いメリットとなります。
青色申告にも2種類あり、帳簿を「単式簿記」で記載する方法と「複式簿記」で記載する方法があります。単式簿記で記載する場合の特別控除の金額は10万円、複式簿記で記載する場合の特別控除の金額は65万円(電子データ保存、電子申告が必要)となります。
ちなみに、単式簿記というのは、おこづかい帳や家計簿など収入と支出で収支を算出する方法です。
複式簿記は、仕訳けと呼ばれる処理により、一つの取引について、貸方と借方という2種類項目に分けて記帳し、最終的に損益計算書と貸借対照表という2種類の書類を作成する方法です。
例えば、1000円の商品を現金で仕入れた場合、借方に仕入1000円、貸方に現金1000円という形で記帳します。その商品が1500円の現金払いで売れた場合には、借方に現金1500円、貸方に売上1500円を計上します。
単式簿記の場合には、上記の例では、商品を仕入れた際に、支出(仕入)に1000円、商品を売り上げた際に収入(売上)に1500円を計上すれば良いだけですね。
この記帳の方法の違いによって、特別控除の額が55万円も変わります。青色申告特別控除というのは、収入から経費を差し引いて算出した事業所得からさらに、控除つまり差し引くことが出来る金額となります。
例えば、事業所得が50万円であった場合、各申告方法によって、以下のような所得金額となります。
- 白色申告 50万円
- 青色申告(単式簿記) 40万円(50万円-10万円)
- 青色申告(複式簿記) 0万円(50万円-50万円)※65万円が控除の上限
青色申告で複式簿記で帳簿を作成することにより、事業所得が65万円を超えない限り所得税の納税額が増え無いということになります。これは大きなメリットだと思います。
事業所得に該当するための帳簿書類の保存とおすすめ会計ソフト
最後に、副業収入を雑所得では無く、事業所得に該当させるために必要な「帳簿書類の保存」についてご説明します。
白色申告の場合
まず、白色申告の場合ですが、作成する書類は「収支内訳書」となります。単式簿記なので、収支の内訳がわかる書類を作成するだけとなります。
以下は、国税庁で公表している確定申告書類作成のマニュアル(白色、青色)となります。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kojin_jigyo/kichou03.pdf
マニュアルによると、収入金額や支出金額を記帳した法定帳簿は、保存期間7年間、その他の補助簿、領収書等の証明書類は5年間の保存が義務付けられています。
青色申告(単式簿記)の場合
次に、青色申告(単式簿記)の場合ですが、作成書類は「損益計算書」となります。
こちらは、簡易帳簿の作成で良いので、基本的には「現金出納帳」、「経費帳」、「固定資産台帳」の3種類を作成すれば、副業の場合は大丈夫かと思います(副業レベルでは、売掛帳と買掛帳は必要無いはずなので)。
上記リンクのマニュアルによれば、書類保存期間は原則7年間となります。
青色申告(複式簿記)の場合
最後に、青色申告(複式簿記)の場合ですが、作成書類は「損益計算書」と「貸借対照表」となります。規模は小さいですが、会社で決算書を作るのと基本的には同じ帳簿作成が必要となります。
主要簿として、「仕訳帳」、「総勘定元帳」の作成が必須ですが、その他の補助簿も作成が必要です。
詳細は、以下の国税庁で公表しているマニュアルを参考にしてください。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2021/pdf/046.pdf
複式簿記の帳簿作成には、一定の専門知識は必要ですが、副業規模であれば、日商簿記3級レベルで十分理解は出来ます。しかし、実際に自分で一から書類を作成し、記録していくというのは非常に手間がかかり片手間に行うにはなかなか厳しいものがあります。
そこで、おすすめしたいのがクラウド会計ソフト「freee(フリー)」です!
こちらのサービスは、月額料が一番安い980円/月(年払いの場合)の「スターター」プランの場合、以下のような機能があります。
- 確定申告書類の作成(白色・青色対応)
- 申告書類の提出機能(電子申告対応)
- 見積・請求書_納品書作成
- チャット・メールサポート
加えて、もう一つ上の「スタンダード」プラン(1,980円/月(年払いの場合))では、さらに以下の機能が追加されます。
- レシート写真の読み取り(ファイルボックス)無制限
- 入金・支払管理レポート
- チャットサポート優先対応
もちろんですが、会計ソフトの利用料金も経費として計上できます。
帳簿書類の作成だけでなく、確定申告の電子申告にも対応しているので、確定申告の手間も大幅に削減することが可能ですよ!