バイオマス発電やバイオマス燃料について~脱炭素とバイオマスの問題点とは?~

木質バイオマスについて

バイオマス燃料について

今回は、ちょっと真面目なテーマです。

子供から大人まで至る所で目にしたり、耳にする「脱炭素」、「CO2削減」、「SDGs」ですが、これらの問題を解決するために注目されているのが「バイオマス」です。

バイオマスとは、動植物由来の生物資源のことです。生物資源は元をたどれば植物や植物プランクトンが大気中のCO2を吸収(一次生産)することに由来しています。

そのため、燃料として燃やしたとしても大気中のCO2総量は変わらないよね、という理由でカーボンニュートラルな燃料として、バイオマス燃料が注目されている訳です。

木は重要なバイオマス資源

木質バイオマス燃料について

中でも日本は、国土に占める森林面積割合が高いため、「木質バイオマス燃料」が注目されており、木質チップを燃料とした木質バイオマス発電が盛んにおこなわれています。

木質バイオマス燃料について私の記憶が正しければ、当初は主に住宅等の木造建築物を解体した産業廃棄物の木くずを破砕機で破砕して作った木質チップを製紙工場などのボイラーで利用していました。

この段階では、元々焼却や埋め立てされていた産業廃棄物を化石燃料の代替として利用するわけなのでCO2削減につながってエコだよね、という理解でした。

しかし、ここ最近では「脱炭素社会」や「CO2削減」を国策として急いで進めていかなくてはならなくなったため、カーボンニュートラルと言われている「木質バイオマス燃料」を使用した「木質バイオマス発電」をFIT(電力の固定価格買取制度)でも優遇して一気に広げようとしてきたわけです。

ただ、ここで問題が生じてしまいます。それは、住宅等の解体により発生する木質チップの量は限られているということです。しかも、これは脱炭素が騒がれる以前に、建設リサイクル法という建設業から発生する産業廃棄物をリサイクルしようという法律によって制度化され、比較的安定的に木質資源として業界で有効活用されていました。

新たに参入したい企業にとっては、FITにより買取価格が固定されているためリスクが少なく、税金が投入され高値で電力を買ってくれるという、美味しいビジネスチャンスが巡ってきたわけです。しかし、肝心の木質チップが手に入らないので、どうしたもんかということになったわけです。

林業業界の低迷

ここに目を付けたのが、長らく低迷していた国内の林業業界となります。林業というのは、木を植えてから木材が取れるまで一般的に50年程度かかると言われています。

そのため、若い人が事業を行うときに、50年後に収入が入るから今の内に頑張って植樹をしよう!とはなりませんよね。20歳の時に植樹しても木材として出荷できるのが70歳の時になってしまうので普通の感覚であれば、起業して林業をしようとは思いませんよね?申し訳ないですが、私なら思いません。

ただ、昔の人たちは、山や林を一族の財産として大事に管理してきました。田舎では一部そのような風習が残っており、集落で共同管理しているような林があったりします。結婚した時に、その木材で家を建てたりするということをしてきたわけです。

このような古き良き風習も、現代ではほとんど引き継がれず、むしろ管理が大変な負の遺産に近い存在になってしまったケースが多いと思われます。そもそも、現代では家を住宅メーカーで建てる場合に、一族で管理している林の木を使って建てて欲しいという要望はほぼ通らないと思います。安い外国材を使用しているケースがほとんどで、国産材を使うとかえって高上りになってしまうからです。

少し脱線してしまいましたが、このような状況があり、森林管理が適正になされず放置されているケースが増えていたと思われます。また、国産材よりも安価な外国材を建材として使用するケースも増えていたため、木材を出荷したくても出荷できないという状況もあったと思われます。管理したくてもお金にならないのであれば、誰も管理しなくなりますよね?という悪循環に林業業界が陥っていたと思われます。

日本の木材自給率と需要(供給)量の推移ー用材部門ー(森林・林業学習館HPより)

森林管理と木質チップ

少し話が変わりますが、ここ数年で山の中を通っている国道の景色が一変してきました。これまで、道路の両側が森林で鬱蒼としていたのが、みるみる内に開けて見通しが良くなりました。

これも木質バイオマス発電の台頭の影響のはずです。

さて、先ほどの話に戻りましょう。森林管理がなされず悪循環に陥っていた林業業界ですが、ここで「脱炭素」と言った救世主がやってきました。

森林管理として重要なものに、「間伐」という作業があります。「間伐」は文字のとおり、間を伐採する作業のことで、木と木の間を適正な間隔にすることによって、日当たりを良くしたりして木の生育を促進させる目的があります。

この間伐材を木質チップの原料とすることで、森林管理と木質バイオマス燃料の原料不足という2つの課題をマッチングさせた訳です。この考え自体は素晴らしいことだと私も思います。

しかし、この間伐という作業はとても大変な訳です。考えてみれば当然ですが、決まった範囲の全部を伐採して良ければ、伐採しやすい所から順番に伐採してゆけば良いため、搬出しやすく出荷作業も効率的に行えます。

一方、間伐となれば、将来に木材商品として出荷するべき木は残して間を伐採していかなければならないため、伐採作業や搬出作業が非常に煩雑になります。しかも、木材商品がお金になるのは10年、20年後になるわけなので、出来るなら全部伐採してお金にしてしまいたいですよね?

木質チップ燃料も需要の増加とともに値段が上がってきているためチャンスな訳です。

以下は、林野庁HPに掲載されている、燃料材の国内消費量の推移です。燃料用チップ需要が年々増加しているのが見て取れると思います。

燃料材の国内消費量の推移(林野庁HPより)

木質バイオマスの輸入について

上記のグラフを見ると、国内生産の燃料用チップの他に、輸入されている燃料用チップも年々増加してきていることが見て取れます。

これは、木質バイオマス発電所が全国で乱立されたことが大きな理由だと思います。国産の燃料チップについては、どんなに頑張って森林を伐採したとしても、林業者が急増でもしない限り一気に生産量を増やすことは不可能です。

ちなみに、ここ数年の林業者については、仕事は急増しており人手が全然足りない状況だそうです(知人からの噂話)。フル稼働にもかかわらず燃料用の輸入チップが増えているということは、需要に対して供給量が追い付いていない状況だということです。

ある一定の地域から発生する国産燃料チップは限られているため、木質バイオマス発電所が一つの地域に何個も建設されると燃料が足りなくなるのです。足りないからしょうがないとはならないため、その足りない分を輸入しているということになります。

ただ、考えてみてください。カーボンニュートラルな発電燃料を調達するために、化石燃料を燃やして遠い海外(東南アジアや北米など)から木質チップを運んでくるなんていうのは、まともな感覚を持っている人からしたら、違和感がありまくりです。

CO2削減というのは、地球規模の温暖化を抑制するための世界的な取り組みです。日本では一見してカーボンニュートラルな見た目の電力を使うためなら、海外の木材をどんどん伐採して、燃料チップを生産して、化石燃料を燃やして日本に運んでくるような取り組みも評価されるとしたら正気の沙汰では無いですよね。

少なくとも、日本にわざわざ運んでくるよりも、海外で木質バイオマス発電をして、海外でカーボンニュートラルな電力を使用した方が良いに決まっています。こうした部分が悪い意味で日本的な取り組みと言えると思います(関係者の方がお読みになっていたら申し訳ないですが)。まさしく、木を見て森を見ない(日本だけを見て、地球全体を見ていない)取り組みと言えると思います。

ちょっと、熱く語ってしまいましたが、ここらで木質バイオマスについては一区切りしたいと思います。ちなみに、私は環境オタクでは無いですよ。反対運動なども全くする気は無いですし。単純に思ったことを書いてみただけです。

バイオマス液体燃料について

バイオマス液体燃料とは?

さて、先ほどは木質バイオマス燃料という、「固体」のバイオマス燃料について書きましたが、今度は「バイオマス液体燃料」になります。

バイオマス液体燃料は、生物資源由来の液体燃料となります。代表的なものに廃食用油やバイオエタノール、パーム油などがあります。

廃食用油を再生したバイオディーゼルを燃料にしたごみ収集車など目にしたことがある人がいるかもしれませんが、廃食用油を再生する取り組みはかなり前から取り組まれています。

ただ、廃食用油は回収システムの構築が大変(市民の協力や大口排出者の確保)であり、採算性も高くないため需要という意味では横ばいなイメージです。また、寒冷地では冬場にバイオディーゼルが固まってしまいエンジントラブルが発生するという問題点もあったりします。

液体バイオマス発電所とパーム油の問題

先ほどは木質バイオマス発電所を中心的な話題にしましたが、同様に液体バイオマス発電所というものもあります。ただ、現在はほとんどの施設が休止中になっていると思われます。

その最大の理由が「パーム油の価格急騰」になります。

パーム油というのは、アブラヤシを原料として生産された植物油になります。元々、パーム油は食用油の他、洗剤やシャンプーの原料としても輸入されていました。しかし、「バイオマス」がカーボンニュートラルな燃料として注目されるやいなや、燃料としての需要が一気に増大しました。

以下にパーム油の国別生産量と生産量の大半を占めるインドネシアとマレーシアのアブラヤシ栽培面積を示します。

パーム油の国別生産量(2019年)とインドネシアとマレーシアのアブラヤシ栽培面積(2019年)
認定NPO法人ボルネオ保全トラスト・ジャパンHPより)

アブラヤシの栽培面積が2000年以降に急増しているのが見て取れると思います。

ちなみに、アブラヤシはプランテーションという大農園で栽培されていますが、これは熱帯雨林を開拓して作られていますので、環境に良い取り組みかどうかは考えればわかりますよね?

パーム油の価格急騰

このパーム油を燃料にした液体バイオマス発電所の計画が日本でも次々と立ち上がったわけですが、様々な理由により価格が急騰してしまいました。特にウクライナとロシアの戦争により、ヒマワリ油やナタネ油の輸出や生産に影響が出たことが大きいと言われています。

以下のグラフを見てもわかるように、2019年にkgあたり60円台だったパーム油が、2022年3月には200円を超えています。ガソリンよりも安かった燃料がガソリンよりも高くなってしまったので大変な価格高騰になります。

パーム油価格の推移(世界経済のネタ帳HPより)

こうなると、当然パーム油を燃料とした発電事業の収支計画が立ち行かなくなってしまいます。そのため、ここ最近で一気に稼働中だった液体バイオマス発電所が休止に追い込まれています。

液体バイオマス発電事業者についても、かなりおかしい計画だったり、住民や行政に虚偽説明をしていたというニュースが流れており、パーム油の価格高騰以前に問題があった可能性も考えられます。

バイオエタノールについて

長くなってしまいましたが、最後に「バイオエタノール」について考えてみたいと思います。

バイオエタノールで有名なのはアメリカとブラジルです。ブラジルはサトウキビの生産が盛んで以前から国家プロジェクトとして、サトウキビからバイオエタノールが作られ、ガソリンに混合して燃料として利用してきました。ちなみにアメリカではトウモロコシを原料としたバイオエタノールが主に生産されています。

世界のバイオエタノール生産量の推移及び予測(新電力ネットHPより)

日本でも10年ほど前に稲わらからバイオエタノールを製造する実証事業が全国、特にコメの生産量が多い地域で立ち上がりましたが、稲わらの集荷の問題、製造コストが高いなどの理由から現在はほとんど稼働している事例は無いと思います。

稲わらからバイオエタノールを製造するのは、取り組みとしては悪くはないのでしょうが、如何せん集めるのが大変です。集めるために化石燃料をわんさか燃やしてしまえば、何をしたいのかがわからなくなってしまいますよね。実現するためには、仕組み作りに一工夫も二工夫も必要だと思います。

ちょっと、話の路線が変わりますが、日本では地方ではどんどん過疎化が進んでいる状況ですが、世界に目を向けてみると、まだまだ人口が急増している最中となります。当然、人口が増えると食料が必要となります。世界の食料が不足する中で、トウモロコシやサトウキビを車や発電の燃料にするというのは問題がありそうですよね。ここでは議論しませんが。

最後に。

こんなに、書くつもりじゃなかったのですが、かなり長くなってしまいました。

ただ、「バイオマス」については、脱炭素社会の中心的な話題にすでになっていることは間違いありません。ただ、日本だけではなく、世界に目を向けてみるとまだまだ様々な課題があることがわかってきます。

脱炭素やバイオマスの話題については、まだまだ書きたいことがあるので、今度はもう少し焦点を絞って各論について記事にしていきたいと思います。

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